ユーラシアパンクめぐり#39 モルドバの夏は何もない夏です
8月23日
月が出ていた。満月だった。
夜行列車はモルドバ国境にさしかかった。コンパートメントに入国管理のコミュニストが乗り込んでくる。「なにをしているんだ、お前は」「モルドバになんの用だ」「モルドバの次はどこへ行くんだ」「ジャパンって中国のどこだ」とか意地悪くいろいろ尋ねてくる。
うるせえなあ、どーせスタンプ押すんだろ?
……ほら押した!!
朝になった。となりの席の緑の帽子をかぶった出稼ぎオヤジがズタ袋からオレンジを取り出し、僕に分けてくれた。スパシーバ。
列車はモルドバの首都「キシナウ」に到着した。オヤジが少し心配そうに「ホテルは決まってるのか?」と聞いてきた。「いや、これから探すよ」
(あんたんとこ泊めてくれねえかなあ)とか思っていたが奥ゆかしい列島人は黙っていた。
オヤジは、バイ、と言って去っていった。さてどうしたもんか。
するとやはりどこにでもいる目つきの悪い客引きが寄ってくるのである。
「ほら、こっちについて来い!」などとしきりに簡単な英語でまくし立てて来る。挙句に「おっと、これは信号だ。赤だ。止まれ」だと。そう、おれは未開人カオル……。
なんとか煙に巻いて、尻尾も巻いて、その場を離れてホテル探し。安宿街なんてものはない、寂しい街並み。体感的には新潟駅前ってかんじかな。がんばれ新潟。
駅前のドでかいホテルに入ってみた。名前はCosmos Hotel。だだっ広いロビーに客の姿はまばら。値段を聞くとシングル29ユーロもする。太った不愛想おばちゃんに値下げ交渉は効かない。オーケー、いいだろう。ここに決めるよ。
部屋はなんと12階! 部屋の内部は無駄に広く、だが設備は古めかしい。あああぁあソヴィエトめ!!!!!
コスモスホテルからの眺め
そう、ソヴィエトはいたるところに爪痕を残している。馬鹿でかい建物、マニエリスムな英雄の銅像、冷ややかな店員。ここでは「必殺アジア人だよ珍しいでしょ優しくしてね」攻撃がまったく通用しない。
キシナウ・ティーンエイジャーズ in Summer
キシナウ大聖堂
広場に売店があり、黒ビールらしきものを売っていた。これは酔っ払うしかないと思い購入、しかし味はなんだかマズいコーラのよう……。後で調べたら、それは「クワス」というロシア圏でポピュラーな麦の飲料だった。
やることがなく、宿代も高い。
となればやることは一つ、移動である。
隣国ウクライナのオデッサへ。
待ってろ黒海。トルコにいた時のおれとは一味違うぞ。