ユーラシアパンクめぐり#13 ベトナム地下音楽

 さて、この旅の目的を失念してしまっている人もいるのではなかろうか?

 

 

ここらでそろそろ音楽の話をしよう!!!!

 

 

観光情報には事欠かないファングーラオ近辺で聞き込みをすると、さすがは経済の中心地であるホーチミンシティ、いや、あえてサイゴンと呼ぼう。市内にはロックバンドの演奏が見られるライブバーが数件あることがわかった。

 ひとつはみなさんご存知、ハードロックカフェである。インターコンチネンタルホテルの隣に位置し、まだ新しい外観で外資の威容を誇っている。音響設備や照明、飲食物など、どれをとっても超一流。

2011年にはノルウェーのブラックメタルバンド、Mayhemがここで演奏し、会場は大熱狂に包まれた。

 しかしながら普通の日に行くと、雇われプロミュージシャンが往年の名曲を演奏してばかりで僕としては面白くもなんともない。おまけにビールは一杯7ドル。客層もお上品な欧米人の家族やカップル、そして裕福そうなアジア人ばかり。

 欧米諸国に押し付けられただけのロックは死んだのだ。

 そしてもう一方、正真正銘のサイゴンアンダーグラウンドミュージックを体感できるのは、K-13Metallic Barといったライブハウス。

 南北に長いベトナムでは、方言や食習慣に限らず、地下音楽の志向も違ってくる。北のハノイでは、「ソニックムーン・フェスティバル」に代表されるように、シンセサイザーなどを用いた実験音楽やエレクトロ、アンビエント系統が盛り上がりを見せている。

もちろんパンクも少数ながら存在する。坊主頭の女性ヴォーカルを擁するGo Limこそは、初期パンクを思わせるシンプルな構成に見事なアナーキー精神をぶつけてくれていたが、肝心の彼女が死去してしまい解散した。圧巻の動画はこちら

 激しい音楽は南のサイゴンが強い。その中でもパンクよりデスメタルやグラインドコアの方が人気である。(一説によると、共産党に批判的な歌詞を書くとしょっぴかれる恐れがあるため、デス声やスクリームでカモフラージュしている場合もあるらしい!)

 中でもダントツの激しさと行動力で絶大な人気を誇るグラインドコアバンド、WU’Uのギタリストでもあり、国内初にして唯一の自主レーベル、Bloody Chunks Recordsを運営するチュン氏はこう語る。

「ベトナムのメタル・パンクシーンはそれほど大きくない。かっこいいバンドが10組、そうでないのが20組くらいいるだけだ。ホーチミンシティでは、100人か200人の小さなコミュニティで毎回ライブを楽しんでいるよ。……たぶん、人々はまだこういう種類の音楽を恐がっているんだろう」

しかしながら、僕が行ったライブハウスK-13では、轟音とともに若者たちの新鮮なエネルギーが満ちており、これからのサイゴン・エクストリームミュージックのより一層の深化、発展を予感せずにはいられなかった。

 

僕はここぞとばかりに店のスタッフに自分のバンドの音源を渡し、「今度来たときにはここでライブしても良い」という許可を半ば強引に取り付けた。

ベトナム最後の、最高の夜だった。

 

 最後にチュン氏の言葉。

「エクストリームメタル、そしてエクストリーム野郎はどこにでもいるんだ。ベトナムにもな」

WU’Uのライブ音源と写真はこちら

 

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